六波羅蜜とは|意味等を解説
六波羅蜜とは苦しみの多いこの世界で、その苦しみから解放されるために、実践すべき6つの項目を意味する言葉です。
苦しみから解放されると言うと、「大げさな」とか「六波羅蜜って難しいそう」と感じるかもしれませんが、六波羅蜜の6つの実践項目はとてもシンプルで分かりやすいものです。
日本の伝統的な行事にも実は影響している六波羅蜜について解説いたします。
六波羅蜜の読み方「ろくはらみつ」
六波羅蜜はそのまま「ろくはらみつ」と読みます。
日本で最も読まれるお経の一つ、般若心経で「般若波羅蜜多(はんにゃはらみった)」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、般若波羅蜜多というのと六波羅蜜は関係があります。
それらについても含めて六波羅蜜の詳しい意味について見ていきましょう。
六波羅蜜の意味
六波羅蜜の意味は6つの「波羅蜜(波羅蜜多)」ということですが、この波羅蜜・波羅蜜多という見慣れない漢字が並ぶ言葉の意味についてまずは解説いたします。
波羅蜜・波羅蜜多とは
波羅蜜もしくは波羅蜜多と言うのは、お釈迦様が仏教を始めた当時のインドで話されていた言語であるサンスクリット語の「パーラミター」という言葉の漢訳です。
この波羅蜜(波羅蜜多)の意味は
などとされます。
わざわざいろんな表現を書いたのは波羅蜜(波羅蜜多)が上記のように訳されているのですが、どれも同じ「苦しみから解放されるための修行法」という意味を持つからです。
仏教用語はほぼ同じ内容を様々な表現・漢字表記で言い換えていることが多く、難しく感じがちですが、言っていることはとてもシンプルです。
以下の六波羅蜜の説明では統一して「苦しみから解放される」を「悟りの境地に達する・悟りを開く」と表現します。
悟りの境地、つまり涅槃とはどんな意味かこちらで詳しく解説しています。
涅槃とは|涅槃(ニルヴァーナ)の意味は苦しみの最高の境地=仏教のゴール
六波羅蜜は悟りを開くための実践項目
続いて六波羅蜜の6つの実践項目について詳しく解説しますが、この6つの実践項目を知るだけだと、「お釈迦様は良いこと言うな」という感想を持つだけで終わってしまうかもしれません。(私はそうでした)
そこで、六波羅蜜の教えを知る前に、ぜひお釈迦様が説いた、この世界の真理(絶対に変えられないルール)である諸行無常と諸法無我について知っておいて欲しいと思います。
このことを知ることで、六波羅蜜という教えがただ「人に優しくする」「正しく生きる」などと良いことを言っているだけではなく、なぜ「人に優しくする慈悲の心が生まれるのか」という深い理解ができます。
諸法無我についてはこちらで詳しく解説しています。
諸法無我とは|意味や簡単にイメージできる例で説明。諸行無常との関係とは
諸行無常についてはこちらで詳しく解説しています。
諸法無我とは|意味や簡単にイメージできる例で説明。諸行無常との関係とは
各六波羅蜜の意味や読み方
六波羅蜜は「布施・持戒・忍辱・精進・禅定・智慧」この6つで構成されています。
六波羅蜜①:布施(ふせ)
布施とは見返りを求めず人のために様々な良いことを行うことを意味します。
「お布施」というと僧侶の方へ法事等の感謝の気持ちでお渡しするお金や物品を想像すると思いますが、これは六波羅蜜の布施からやってきています。
本来の布施の意味は、誰彼かまわず人のために善行するということで寺院に対してのみではありません。
布施には次のようなものが挙げられます。
- 財施(ざいせ)
お金や衣食などを必要としている人に無償で与えること。(喜捨とも言い、相手を思って見返りを求めず喜んで差し出すことが大事) - 法施(ほうせ)
金銭や物品を与えるのではなく、仏教の教え等を相手に伝え、精神面で安らぎを与えること
(仏教の教えに限らず自分の持つ様々な知識で周りの人を助けること) - 無畏施(むいせ)
相手の持つ恐怖や不安という心を取り除いて安心させること
この三つが布施と言われるものとされるのですが、お金がない人・教える知識がない人でも、普段の生活ですぐにできる7つの布施があります。
- 眼施(がんせ)
慈しみ・優しさ眼差しを持って人に接すること - 和顔施(わがんせ)
和やかで、穏やかな顔で人に接すること - 愛語施・言辞施(ごんじせ)
優しい言葉、思いやりのこもった言葉を使うこと - 身施(しんせ)
自分の体を使って様々なことをすること(人がいやがることを行うなど) - 心施(しんせ)
心の底から人を思いやること - 床座施/壮座施(しょうざせ)
席を譲ること・相手に安らげる場所を与えること - 房舎施(ぼうじゃせ)
困っている旅人に泊まる場所や休憩する場所を提供すること
仏教では具体的にこのような布施の教えがあるのですが、布施を実践する上で最も大事なのは相手に対して良いことを行う場合、見返りを求めない心で行うというのがポイントです。
また相手に対して良いことを行うというのはとても難しいことで、相手目線で良いことを行うということもとても大事なポイントとされます。
相手のためになる物事を行うことを仏教では利他と言います。
この利他の行為は、自利(自分のためになる)ということが最近の脳科学の進歩によって解明されてきています。
相手のことを思って行うことは、人間の脳の報酬系にとてもよい影響を与えます。(良いことを行った結果、相手に認めてもらうことで得る快感を社会的報酬と言い、金銭的報酬よりも脳に快感を与える物質が分泌される)
「相手のために」が大事とわかっても、自分の利益も優先してしまうこともありますが、本質的に相手のため(利他)は自分のため(自利)とわかると、布施の実践をする時の気持ちも変わってくるかもしれません。
相手のためと言うのはとても難しいことを表す有名な話ですが、電車で席を譲ろうとして、相手が「まだ席を譲ってもらうほど年取っていると見られたくない」と考えていたら席を譲ることも良いことではないとも言えます。
繰り返しますが、自分本位の考え方で”良いこと”をするのではなく、相手の目線で考えることを意識することが布施の重要なポイントです。
布施は布施波羅密や檀那(だんな)とも言います。
お寺さんにお世話になっている家を檀家と言いますが、この檀家は檀那をする家族で檀家と言うようになったそうです。
六波羅蜜②:持戒(じかい)
持戒とは戒律を守ること。つまり規則正しく生活を送ることを意味します。
仏教には様々なルール(虫も殺してはいけない等)があり、これらを戒律と言います。
ちなみに仏教では多くの戒律がありますが、一般の仏教の信徒も守るものとする五戒律があります。
- 不殺生戒(ふせっしょうかい)
生き物を殺してはいけない - 不偸盗戒(ふちゅうとうかい)
盗みをしてはいけない - 不邪淫戒(ふじゃいんかい)
邪淫を犯してはいけない - 不妄語戒(ふもうごかい)
嘘をついてはいけない - 不飲酒戒(ふおんじゅかい)
酒を飲んではいけない
他にも、十戒律と言い上記の5つに加えて、怒ってはならない、他人を陥れるようなことをしてはいけないなどがあります。
仏教のルールは元々、お釈迦様の教えを布教する集団を律するためのルールだったもので、お酒を飲んではいけないという不飲酒戒もお酒を飲んで暴れたり良くないことをしでかすからいけないとしたとも言われ、現代では様々な解釈があります。
持戒を実践するというと、現代では仏教的な教えに限らず自分自身を戒める心を持つこと、ルールをきちんと守ることと理解されることもあります。
持戒は持戒波羅密とも言います。
六波羅蜜③:忍辱(にんにく)
忍辱とは辱めや憎しみ、怒りを抱くようなことをされたり、感じてもそれらに耐え忍ぶことを意味します。
六波羅蜜は現代の生活でどうやって実践するかを様々な人が、様々な観点で解説していますが、忍辱は寛容な心を持つと理解されることが多いです。
苦しいことも、恥ずかしいことも避けては通れない人生において、それらに耐え強い心を養うことを重要と理解されます。
また相手にそのような辱めなどを受けたりしても、その相手を赦す寛容な心を養うことと理解されます。
最も根源的な3つの煩悩の三毒の中の瞋恚(しんい)がありますが、怒りの感情は私たちを苦しめる根本的な感情なのです。
忍辱は忍辱波羅密とも言います。
六波羅蜜④:精進(しょうじん)
精進とは怠けず、正しい努力をすることを意味します。
悪いことをしていたのならそれは止め今後はしない。
良いことをしていたならそれを続ける。
まだしていない良いことをしていたならそれを始める。
悪いことは悪いことを生み、良いことは良いことを生みます。
精進は精進波羅密とも言います。
六波羅蜜⑤:禅定(ぜんじょう)
禅定とは正しく座禅をすること、さらに言うと心を静め、常に落ち着いた心を持つための修行をすることを意味します。
落ち着いた心を持つために、座禅という修行をすることをお釈迦様は教えているわけですが、この座禅と言うのは実際に科学的な効果があります。
アメリカではマインドフルネスと言って脚光を浴びていることも最近では広まりつつあり、Googleなどの企業がマインドフルネスを導入するなどのニュースもありました。
マインドフルネスは心拍数を数えるだけに集中するとか、呼吸を数えることだけに集中するとか様々な方法があります。
禅宗などのお寺では一般の人も参加できる座禅道場などがあって、それらの道場でも座禅の手引きなどがあり、一言で座禅というと表現できないものです。
どの座禅が最も合うのかは一度自分で試してみたり、座禅道場に行ってみてはいかがでしょうか。
ちなみにハーバード大学の研究では、ヴィパッサナー瞑想というお釈迦様も行っていた座禅が最も効果があると結果を発表しています。
禅定は禅定波羅密とも言います。
六波羅蜜⑥:智慧(ちえ)
智慧とはこの世の真理を見極めること、正しい心を持って六波羅蜜の他の項目を実践することを意味します。
“智慧”は”知恵”と違い、単なる知識、頭の回転の速さといったものではなく、物事の真偽を見極める力を持つことです。
頭の回転が速いだけでは、悪知恵とも言って悪いことにも利用できます。智慧と知恵には大きな違いがあります。
布施の例でも挙げましたが「相手のための行動」一つとっても自分本位で、小手先の行動で逆に相手に迷惑がかかっては本当の意味の「相手のため」ではありません。
「相手のため」の真とは何かを見極め、その人が本当に必要とする助けの手を差し伸べることも智慧の一つと言えます。
智慧は智慧波羅密とも言います。
智慧の完成という言葉は般若波羅蜜多とも言う
智慧は「般若」とも言い、最初の方で般若心経の「般若波羅蜜多」という言葉を出しましたが、「智慧の完成」を意味しています。
智慧という言葉についてはこちらで詳しく解説しています。
智慧とは仏教が説く苦をなくす鍵|知恵と智慧の意味の違い等解説
六波羅蜜と般若波羅蜜(般若波羅蜜多)と般若心経
般若心経と言う、日本の仏教のほとんどの宗派で読まれるお経は六波羅蜜を実践する目的である、「悟りの境地に到るため」に知るべき内容を説明しています。
般若心経は「空」という仏教においてとても大事な真理を説明しています。
空と言う概念は簡単な言葉で説明しても、中々理解しづらい、イメージしづらいものです。
しかし、般若心経の教えの空とは何かを理解すると
↓
慈悲という相手を思う本当の考え方がわかり
↓
布施という六波羅蜜の実践が本当の意味で”相手のため・自分のため”になります。
また、空とは何かを理解すると、
↓
苦しみがなぜ生まれるのかがわかるようになり
↓
苦しみや辱めに耐える強い心を養うことができるようになります。
六波羅蜜がただのきれいごとと思っていた人も、「六波羅蜜はとても深い教えだ」と感じるようになるかもしれません。
ただし理解しても、それを実践することはまた全く別次元でとても難しいことです。
それでも六波羅蜜や般若心経をただの教えや呪文としてではなく、実用的な物の見方として取り入れると人生の様々な苦しい出来事に対する見方も変わることと思います。
般若心経というお経についてはこちらで詳しく解説しています。
般若心経とは|全文の意味が分かると面白い!般若心経の現代語訳と意味解説
また、真理とはそもそも何かについてはこちらで解説しています。
真理の意味とは|仏教の真理と他宗教の真理,哲学の真理の意味は違う
六波羅蜜にまつわることについて
六波羅蜜の内容についてご紹介いたしましたが、その他に六波羅蜜の影響が垣間見える日本の伝統行事についてなどをご紹介いたします。
六波羅蜜が由来である短なことの例えの一つは、お仏壇やお墓へのお供え物です。
- 布施はお水
- 持戒は塗香(ずこう)
- 忍辱は供花
- 精進は線香
- 禅定はご飯
- 智慧はロウソク
をそれぞれ表しています。
他にもある六波羅蜜にまつわるもの事についてご紹介いたします。
六波羅蜜はお彼岸と関係
六波羅蜜は3月と9月に2度やってくるお彼岸の期間に関係しています。
春のお彼岸と秋のお彼岸いずれも、春分の日と秋分の日の前後3日ずつ6日を足して、計7日間をお彼岸と言います。
この6日の由来が六波羅蜜の六なのです。
お彼岸の由来
波羅蜜(波羅蜜多)という言葉は、サンスクリット語のパーラミターという言葉を音訳したものとは解説しましたが、このパーラミターを意味する別の漢字表記で「到彼岸」というものがあります。
彼岸という言葉は元々「悟りの境地・仏様の世界」を意味する言葉でした。
「悟りの境地に到る」で「到彼岸」と訳されるわけです。
「彼岸」とも言われる悟りの境地は、お釈迦様が入滅されたとき(亡くなられた時)顔を西に向けていたことから西方浄土・極楽浄土とも言われ、西の方にあると考えられました。
春分の日と秋分の日は太陽が真西に沈むことから、彼岸が近くなると考えるようになります。
彼岸が近くなるその前後に六波羅蜜という、悟りを開くための修行を行えているのか反省し、彼岸に到ることができるようにするというのが、お彼岸の由来となります。
ちなみに、一般的にお彼岸はお墓参りしたり先祖供養する期間となっていますが、お寺ではお彼岸の期間に彼岸会という法要が行われ、六波羅蜜の実践ができているかを反省する時期としています。
お彼岸についてはこちらで詳しく解説しています。
お彼岸とは|意味やお彼岸にすること,お彼岸のいつするかなど解説
六波羅蜜と八正道
仏教に詳しい方であれば、八正道という教えについてご存知かもしれません。
八正道とは、漢字のままで意味が分かると思いますが、8つの正しい考え・行いを意味し、お釈迦様が悟りを開くためにこれをしなさいと仰ったものです。
悟りの境地に達するために行う実践項目というと、六波羅蜜と八正道は被るものではありますが、布施という相手のために行うことを含むかどうかなどの違いがあります。
日本は大乗仏教と言う仏教の派に属し、タイなどの国では上座部仏教という仏教の派が信仰されていますが、一般にこの大乗仏教では六波羅蜜を、上座部仏教では八正道を重視していると言われます。
いずれもとても大事な教えですので、どちらかだけを知るというより、どちらも知って自分のためになるように理解するのがよいでしょう。
八正道についてはこちらで詳しく解説しています。
八正道とは|仏教の説く実践すべき8つのことの意味をわかりやすく解説
六波羅蜜・八正道を理解するには、仏教の最も基本的な教えである四諦(四聖諦)という言葉もぜひ知っておくべきです。
四諦(四聖諦)についてはこちらで詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
四諦(四聖諦)とは|仏教の言葉の意味を八正道も含めわかりやすく解説
六波羅蜜の教えは
六波羅蜜の教えについて簡単に解説していきましたが、いかがでしたでしょうか。
ただ良いことを言っているなと感じただけであれば、ぜひ般若心経の「空」やら、四諦やら、仏教の根本的な教えについても様々知っていただければと思います。
それらの教えも全てが六波羅蜜につながっていて、六波羅蜜はまた他の教えとつながっています。
これは仏教の大事な教えである因縁・縁起というものにも通じるのですが、この世界はあらゆるものが互いに作用しあって存在しています。
仏教の世界観はたくさんの漢字で表現され、難しく感じると思いますが、本来はとてもシンプルなものでとても実用的・現実的なものです。
ただし、どこかを一つくりぬいて理解できるというものではなく、その教えはどういう考えから生まれているのかを知ることがとても大事です。
たとえば問題解決の本などでよく見る表現ですが、問題が起きた時、その解決策を考える際「根本的な原因」をはっきりさせることが大事、そのために「なぜを五回繰り返す」などの方法論がありますが、仏教の考え方も同じです。
「苦しみの多い人生」という問題を解決するため、お釈迦様が徹底的に考えに考え抜いた結果「苦しみの原因」を発見し、その原因を解決する方法をまとめたのが仏教です。
仏教は世界三大宗教とも言われ世界的に布教された宗教です。
波羅蜜と到彼岸など、同じ概念がたくさんの見慣れない漢字で表現され難しく感じますが、どんな人にも伝わる、わかりやすくて実用的な教えです。
浄土真宗、真言宗、日蓮宗等々、日本だけでもたくさんの宗派があり、般若心経やら法華経というお経がたくさんあって、全ての教えを理解するのは大変難しいことかもしれません。
しかしどの宗派もどのお経も「苦しみから解放されるための具体的な教え」を伝えるものと共通点があります。
ここまで読んで下さった方は元々仏教に興味がある人が多いかもしれませんが、あまりなかった人もこれを機に仏教の教えに興味を持っていただければなと思います。
ちなみに、仏教の教えを最も端的に3つ(4つ)で表現したものを三法印(四法印)と言います。
それらについてまだ知らないいという方はぜひこちらもご覧ください。
<三法印>
四法印は上記3つに一切皆苦を加えたもの。
六波羅蜜以外にも十波羅蜜というものが
最後に、一般に知られる六波羅蜜という教えですが、そこに4つの実践項目を足して十波羅蜜という教えもあります。
六波羅蜜に足されるされる4つの波羅蜜は、
- 方便波羅蜜
智慧を他の多くの人に伝え、智慧を得るように導くこと - 願波羅蜜
願いを持って、その願いを実現すること - 力波羅蜜
善行を実践する力・真偽を見極める力を養うこと - 智波羅蜜
真実を見抜く智慧を持つこと
厳密な意味などについては、お寺に行ったり、専門的な本を読んでみてください。