梵天とは|仏教の始まり[梵天勧請]の意味や真言・帝釈天と仏像の解説

梵天

梵天とは|仏教における梵天の意味

梵天とは元はインドの神様でしたが、仏教にも取り入れられ、仏教の中の天部という神様の中の最高位に居られる神様です。

梵天勧請という逸話もある神様

梵天勧請とは、梵天が仏の教えを民衆に広めるように仏陀を諭した逸話です。

仏陀は悟りを得た後にそのまま解脱し、人間界とは別の悟りの世界へ向かおうとし、その崇高な教えを衆生(人々)に伝えるのは困難で教えることは無理だとあきらめたのです。

この諦めから、何とか布教をするように持っていたのが梵天という神様です。

梵天がいなければ、仏教と言う世界三大宗教の一つは生まれなかったのです。

今回はこの仏教という宗教のきっかけを作った梵天という神様について詳しく解説いたします。

梵天の読み方は「ぼんてん」

ちなみに梵天はそのまま「ぼんてん」と読みます。

梵天の意味

梵天と言うと、今では耳かきのふわふわや、修験者が利用する仏具(神具)の一つの幣束を表す言葉にも利用される言葉でもあります。

仏教世界においては、梵天は次のような意味を持ちます。

  • 天部の神の最高位で仏教の護法善神としての梵天
  • 仏教の世界観で三界の中の色界十八天の初禅三天の最高位大梵天に住む神様

仏教の世界観を知らないと、梵天を理解するのは少し難しいので、ここからは仏教に取り入れられた梵天の由来や、仏教の世界観について解説いたします。

梵天の由来は「ブラフマン」

梵天という神様の由来は、バラモン教の宇宙・万物の根源を意味する「ブラフマン」を神格化し、創造神の「ブラフマー」です。

少し、わかりにくくなりましたが、「ブラフマン」という概念が「ブラフマー」という神様になったというイメージです。

現在のインドで最も信仰されるヒンドゥー教の中でブラフマーは最高神の3柱(トリムルティ)の一角をなしとても重要な神様とされています。

梵天を英語で表記すると

ブラフマーとブラフマンと似ているので、わかりにくいですが、

梵天という神様になるのは「ブラフマー(Brahma)」です。

このブラフマーの元となる宇宙・万物の根源は「ブラフマン(Brahman)」と「n」が付きます。

いずれにしても、仏教が始まったインドにおいて、神話上でも最も重要な神の一柱でした。

仏教の世界観と梵天の役割

梵天と言う神様を理解するために、仏教の世界観を簡単に解説いたします。

仏様と神様

仏教の世界において、梵天は護法善神(仏様・仏法の守護神)という神様です。

ここで重要になってくるのは、神様は仏様次ぐ存在であるということです。

仏教において、「悟りを開いたもの=仏様」がもっとも崇高な存在です。

この仏様は「如来」と呼ばれます。

この「如来」に次ぐ存在として「悟りを求めるもの」を意味する「菩薩」が存在します。

そして、「如来」だけでは正すことができない衆生が、間違いを犯したときに厳しく律してくださる存在として、如来の化身「明王」が存在します。

梵天を含む仏教の神様の「天部」はこの次の存在として仏教の中で説かれ、元はインド神話の神様や夜叉や羅刹と言う鬼と言った存在です。

梵天を含む天部についてさらに詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

天部とは|仏教の守護神、天部衆の神様の種類や信仰,有名な仏像を紹介

梵天はや天部の神様は「如来」「菩薩」「明王」の周りに配置され、仏様や仏教の教え(=仏法)を守護する守護神とご紹介しましたが、

この天部の神様は仏様よりも、私たち人間に近い存在で、人間の住む世界に近いところにあって、仏様では救いきれない衆生にご利益を授けてくれる福徳神という性格を持ちます。

仏教の世界観「三界」「十界(六道)」

天部の神様は人間に近い存在と言いましたが、仏教の中では仏様、神様、人間が住む世界はそれぞれ名前が与えられています。

この世界を分ける指標に「三界」というものと「十界(六道)」が存在します。

三界

三界は「欲界」「色界」「無色界」という3つで構成されます。

  • 欲界(よっかい):欲望にとらわれ苦しみ悩む衆生のいる世界
  • 色界(しきかい):美しい物・形にとらわれている衆生のいる世界
  • 無色界(むしきかい):物などの美しさにとらわれなくなったがまだ迷いのある衆生のいる世界

この世界においては梵天は色界に属します。

十界(六道)

三界よりも、一般的な仏教の世界観を表す言葉に六道という言葉があります。

六道は、下から「地獄道・餓鬼道・畜生道・修羅道・人間道・天道(=天上かい/天界)」という6つの世界が存在し、梵天を含む天部の神々は天道に属する存在です。

十界は、天台宗において考えられる仏教の世界観で、この六道にさらに仏がいる悟りの世界に近い声聞界・縁覚界・菩薩界・仏界が存在しています。
六道と十界は似ていると考えてよいです。

さて、梵天はこの六道においては人間道の一つ上の神々が住む天道に属し、仏よりも私たち人間に近い存在です。

大梵天に住む神様(大梵天王)

この天道・天上界の中でも、レベルがあって天部の神々の中でも住む世界が違うとされています。

梵天はこの天道・天上界の中にある色界十八天という18に分かれた世界の中の下から3つめの大梵天という世界(梵天とも言う)に住まれる神様です。

大梵天の下には、梵輔天(ぼんほてん)、梵衆天(ぼんしゅうてん)があり、それぞれの世界に梵天の配下となる神様が存在しているとされます。

梵天様とも呼ばれる梵天の仏教での存在

梵天について理解するために、仏教の世界観を解説しましたが、少しわかりにくかったと思います。

そこで、ここからはかみ砕いて梵天という神様を解説いたします。

梵天様の役割は「護法善神」

梵天を御尊像としてお祀りする寺院はまれで、多くの場合須弥壇の仏様の仏像の脇侍(わきじ)として梵天像が安置されます。

梵天は仏教の守護神として、仏の近くで守護をする存在となっています。

梵天は経典の中では、「とても静かな、落ち着いた心(清浄)で幸せに浸る神様」と表現されています。

とても落ち着いた状態は、禅定という、悟りの段階のある段階に達していることから手に入れられるものですが、それでも仏の達した悟りまでにはまだまだほど遠いとされます。

梵天と帝釈天で「梵釈」

梵天様の仏像は多くの場合、帝釈天という護法善神の神様と1対で須弥壇の仏様の両脇侍を固めます。

多くの寺院の仏様のそばに梵天像と帝釈天像が見られます。このことから梵天・帝釈天を合わせて「梵釈」と言われます。

ちなみに帝釈天は四天王を配下に持つ神様で、こちらもとても重要な神様です。

梵天のご利益

梵天を拝むことで、現世利益(私たちの生活に関わる具体的なご利益)を得るということはあまり一般的ではありませんが、以下のものがあると考えられています。

  • 国家鎮護
  • 立身出世

梵天の真言

  • のうまく さんまんだ ぼだなん ぼらかんまねい そわか
  • おん ぼらかんまねい そわか
  • おん はらじゃ はたえい そわか

梵天の梵字

仏教寺院、仏教の神様や仏様を表す梵字(サンスクリット語)は、元々梵天が想像されたと言われます。

そのため、梵天の”梵”が付けられています。

梵天の梵字は「ぼら」と言い、次のような表記になります。

梵天 画像 梵字

梵天勧請|釈迦が布教を決心するきっかけ

冒頭でもご紹介しましたが、梵天という神様がいなければ仏教はなかったかもしれません。

仏教のきっかけとなる、釈迦に仏の教えを伝えるように伝えた梵天勧請について詳しくご紹介しましょう。

梵天勧請のあらすじ

梵天勧請の物語は、パーリ仏典等に乗っているもので、それらを簡単にまとめます。

釈迦とは、生きた人として悟りを開き、仏教の教えを人々に説いた、ゴータマ・シッダールタです。

梵天勧請

釈迦は29歳で、何不自由ない王子としての暮らしを捨て、6年間の苦行によりこの世の心理を見つけようとしました。

しかし、苦行生活では心理に近づくことは難しいと気づき、インドセニャニ村のウルウェラの菩提樹の下で静かに座禅を組みます。

そして、そこで悟りを得るのでした。

悟りの境地に達した釈迦はその幸福と快楽に溢れる状態を49日楽しみます。

この境地に至った釈迦は、同時に絶望をしたと言われます。

その絶望とは、自らがたどり着いた悟りの境地、得たものを釈迦は人々に教えることは不可能だと考えたのです。

あまりにも深遠なその境地は、煩悩にとらわれる衆生には理解が難しく、それを伝えようとすること、つまり説法は不可能だと考えます。

そして、釈迦は悟りの境地を極めて、解脱(げだつ)してしまおうとします。
この時の解脱はもはや人間界の存在ではなくなるということとされます。

梵天は釈迦が悟りの境地を衆生に伝える説法によって、世界をよくしようとしないことに気づき、その決心を変えるために釈迦の前に姿を現したのでした。

そして、この世の衆生を悟りの境地に導くようにお願いをしたと言います。

梵天は釈迦が何度か断っても、人の中には心理を理解できる清浄な心を持って生まれた人もいるなど、嘆願したともされます。

何度かの逡巡の結果、釈迦は梵天のお願い(勧請)も一理あると考え、この世の衆生に自らの得た悟りを伝えることを決心します。

こうして、釈迦が衆生に説法をし80歳で完全な涅槃に入る(この世を去る)までに残した言葉を弟子がまとめたものが経典として今の仏教に引き継がれています。

梵天勧請の解釈①

梵天勧請は釈迦が自らの言葉を伝える、説法を決心した場面でとても重要なものと考えられていることから、様々な解釈があります。

一つには、釈迦が悟りの境地に至ることの説法をあきらめたのは、衆生がその境地に至ることができず、説法をするだけ苦しみが大きくなると考えたからではなく、悪魔がそのようにささやいたからという解釈です。

梵天勧請の解釈②

梵天勧請の解釈で有名なのは、梵天はこの世を造った創造主という神様でありながら、釈迦に説法をし人々を救うことを勧請したという点です。

釈迦は最初の6年間苦行をしていた時、当時のインドの宗教のバラモン教の教えに従った修行をしていたと言われます。

そのバラモン教の説く神話の中で、万物の創造を行うブラフマーこと梵天がやってきて、自らが造った人類の一人である釈迦に説法を行ったのです。

これは新しい宗教ではあるが、それまでの宗教を超えるものであると伝える役割も持っているとされます。

梵天の仏像や画像について

梵天という神様について詳しくご紹介してきました。

ここからは実際に寺院で見られる梵天像について、見所や仏像の特徴を知ってさらに楽しめるように解説いたします。

梵天と帝釈天は2対で1セット

梵天は上記でもご紹介しましたが、帝釈天とセットで安置されることがほとんどです。

仏教の世界観を表した須弥壇の如来像の脇侍として安置されます。

多くの場合、正面から向かって右側に梵天、左側に帝釈天が安置されます。

また、千手観音菩薩の守護神として二十八部衆という天部の神々28柱の中の一柱として安置されることもあります。

梵天の像容

梵天はインド神話のブラフマーが4つの顔に4つの手を持つ四面四臂(しめんしぴ)という形式で描かれているので、その姿をした像や、人と同じように一面二臂の姿もあります。

梵天 画像 ブラフマン

梵天像はガチョウの上に乗っていたり、蓮の花で作られた壇の上にあることが多いですがそれらはインドで描かれるブラフマーが由来とされています。

一面二臂

梵天 画像 仏像 東大寺

真ん中に如来像、その脇侍に梵天像と帝釈天像を安置する場合には、一面二臂の姿の梵天像が一般的には見られます。

中国風の貴族の恰好をした貴人像(貴人形)で表現され、顔はとても穏やかな顔をしています。

一面二臂梵天像の持ち物には、払子や香炉という仏具を持っていることがあります。

上記の画像は、梵天像の中でも有名な、国宝である東大寺 法華堂の一面二臂の梵天像です。

この画像ではありませんが、梵天像は服の下に鎧を来ていることもあり、時代によって様々な梵天像が造られています。

四面四臂

梵天 画像 仏像 東寺
(国宝 梵天像 東寺 講堂)

密教(真言宗等)の寺院においては、四面四臂の梵天像が見られます。

特に国宝にも指定されている東寺の梵天像が有名で、手には蓮華(蓮の花)等を持っており、静かにたたずむ姿は圧巻です。

梵天と十二天

梵天は仏像ではよく帝釈天とセットで安置されていることが多いですが、天部の神様からなる十二天という仏教を守護する神様のグループがあり、梵天と帝釈天はそのグループにも属します。

この十二天は八天や十天ともされますが、次の神様で構成されます。

  • 梵天(天)
  • 日天(日)
  • 月天(月)
  • 帝釈天(東)
  • 火天(東南)
  • 閻魔天(南)
  • 羅刹天(西南)
  • 水天(西)
  • 風天(西北)
  • 毘沙門天(=多聞天)(北)
  • 伊舎那天(東北)
  • 地天(地)

東寺に伝わる、十二天像に描かれる梵天は以下の画像のように、四面四臂で描かれます。

梵天 画像①

薬師如来を守護する十二神将とは別です。

その他の梵天の仏像の画像

梵天の仏像が有名なお寺は複数ありますが、唐招提寺の国宝梵天像も奈良時代の作品で有名です。

梵天 画像 仏像 東招大寺

梵天の仏像で有名なお寺

一部、梵天像の解説でご紹介はしましたが、梵天像が有名な寺院についてご紹介します。

東大寺法華堂(奈良)|梵天乾漆立像

東大寺の法華堂(三日月堂)にある梵天像・帝釈天像は奈良時代の姿を今に残す仏像です。

東大寺法華堂の梵天像は4mを超える仏像です。

特徴的なのは、鎧を着ている梵天像だということです。

東大寺を訪れた際は、大仏もいいですが、ぜひ国宝の梵天像もご覧ください。

参考:東大寺の公式ページ

唐招提寺(奈良)

東大寺と同様、奈良時代の梵天像を見ることができる唐招提寺もおすすめです。

東大寺と同じ時代の作ですが、より動きのある作風で、こちらも裳の下には鎧を着ています。

参考:唐招提寺 金堂

東寺 講堂(京都)|立体曼荼羅の四面四臂の梵天像

個人的に一番のおすすめは、東寺にある梵天像です。

密教の真言宗のお寺である東寺では、四面四臂の梵天像が見られます。

その造形がとても繊細で、圧巻であるとともに、東寺の講堂は密教の仏教世界観を描いた曼荼羅を仏像で表した立体曼荼羅という仏像の配置になっています。

静かな講堂の中で浮かび上がる仏像群は圧巻です。

参考:東寺 天、菩薩、明王、如来

興福寺(奈良県)|木造梵天・帝釈天立像

興福寺の梵天像は鎌倉時代の作で、東大寺や唐招提寺の梵天像よりも裳の動きなどに優れ、生きているかのような姿をしています。

顔はとても清らかで落ち着いているように見え、梵天のイメージそのままと感じます。

ちなみに、興福寺の帝釈天像は現在根津美術館(東京都)にあります。

参考:興福寺 木造梵天像

瀧山寺(愛知県)|運慶作の梵天立像(重要文化財)

愛知県の天台宗のお寺である瀧山寺では、日本の仏師で最も有名ともいえる、運慶の作の四面四臂の梵天立像が見ることができます。

運慶と言えば、東大寺南大門の金剛力士像のような筋骨隆々、躍動感あふれる爛々とした顔をイメージしますが、瀧山寺の梵天像はそれらとは全く違う、柔和で落ち着いた、梵天立像が見れます。

彩色も鮮やかで、とても美しい仏像です。

これらのお寺以外にも、法隆寺の梵天塑像も有名です。